注目選手「前半シーズンの振り返り」

来る後半シーズンに備え、各ブロックが練習を積む7月某日。

前半シーズンの振り返りとして、今季好調の二人にお話を伺いました。

 

薄田健太郎(M2)

800m

今季日本ランキング1位 1’46″17 (5/3 静岡国際陸上にて)

第106回日本陸上競技選手権 2位

ゴールデングランプリ 2位 など

 

 

 

樫原沙紀(体育3)

1500m

関東インカレ 優勝&大会新

800m

第106回日本陸上競技選手権 3位 など

 

 

──普段お二人は同じ中距離ブロックで練習されていて、お互いのことはよくご存じと思います。お互いの紹介をお願いします。

 

薄田「えぇ…他己紹介か…(笑)」

 

樫原「どうします(笑)」

 

薄田「樫原沙紀…え、むずくね?(笑)」

 

樫原「健さんは、リーダーシップあるとか。そんな感じ?」

 

薄田「なるほどそういうことね!えーと樫原はね、『やるときはやる。サボるときは、サボる。』」

 

樫原「これはほんまにそう(笑)」

 

薄田「中距離パートを裏で牛耳ってる。あとは…顔が可愛い。ファンが多い。あ、あと樫原のお母さんと俺は仲良い。(笑)お母さんがなんか俺のこと応援してくれてる。(笑)」

 

樫原「日本選手権の時二年連続写真とってますね、いやどういう情報(笑)」

 

──貴重な情報ありがとうございます。

 

樫原「健さんは、まずリーダーシップがすごくて、みんながついていく感じの人。私が一年生の時のパート長で、『うわ、大学生ってすごい』って感じさせられた先輩ですね。めっちゃしっかりしてるすごい人です。あとは、ユーモア溢れた面白い人です。私のことを『じゃけぎはら』って呼んできます。(樫原の広島弁とかけて)あとは、研究熱心!」

 

薄田「ではない!」

 

樫原「勉強めっちゃしてませんか?そんなことない?(笑)」

 

──中距離ブロックはよく研究室に集まっている様子を見かけますが

 

薄田「そうね!研究というよりは自分が気になる論文読んだりしてるだけなんだけど、みんな楽しそうにやってるね」

 

──修論生としてはどのような研究をされているのでしょうか。

 

薄田「レース中の加速度と角速度をセンサーで撮って、800mのレース中のストライド、ピッチ、スピードから加速や疲労の影響を調べるのをやり始めたところかな。」

 

──それは自身のデータでですか。

 

薄田「そうそう。あとはみんなに筑大競でとってもらったりとか。3,4年生の時は生理学的なことやってたんだけど、今は榎本先生の下でバイオメカニクス的なことやってる。」

 

──中距離でみんなでまとまってやってる感じですか。

 

薄田「そうだね。やっぱ中距離走に興味があって、研究したいって人が榎本研究室に入る感じだから。今年の3年生は榎本研多めだね。」

 

 

意識と環境の変化

 

──今回は前半シーズンの振り返りをメインとしたインタビューというわけで、2ヶ月も前の話にはなってしまいますが、関東インカレについて「目標の達成度」の観点からお話をお願いします。

 

薄田「達成度か、60%かな。オレゴン世界陸上を狙ってて、そうなるとレースを1’46台くらいで5本揃えなければいけなくて、関東インカレでもそのくらいで走ってポイントを稼がなきゃいけなかったし、体のコンディション的にも狙えるかなと思ったんだけど、出てみたらあの大雨で(笑)その環境の中で一人で走った結果、タイムは1’50くらい。あの雨の中では頑張ったかなって感じだけど、当初の目標に比べたら60%くらいって感じ。」

 

樫原「1500mは優勝を狙って結果もついてきて収穫のあるレースだったかなと思います。昨季までは攻めた走りができる選手ではなくて、フロントに出て走るとかはできなかったんですけど、今年は後ろについて走ってばかりだと何も変われないなと思って。今回の関東インカレの戦略としては、最初からフロントでレースを進めて、レース展開を握って最後まで逃げ切るということをやろうとしてて、初めてそういう展開を大舞台でやるのはめちゃくちゃ緊張したし不安だったんですけど、結果としては2周目あたりからフロントで逃げ切れて、いい経験だったと思います。」

 

──今年のレースを何本か見ていて、序盤から攻める展開を多く見かけましたがやはり変わるという意図を持ってのことだったんですね。

 

樫原「そうですね。日本の中で攻めれなかったら見える世界が変わらないかなと思って。今年は攻めるのを目標にやってます。」

 

薄田「かっこいいです…前提として、中距離走でフロントに出るっていうのは不利な戦略で、樫原の実力で確実にいくならラスト200mでスパートすれば勝ちやすいんだけど、今後のためにそのレースをあえてしない、っていうのが、強い。(笑)」

 

──有観客開催についての思いは。

 

薄田「シンプルにテンションが上がるね。静岡国際の時は、ラストの直線で独走してる時に会場が沸いてるのがわかって、足が動いたっていうのはあるし、観客がいる方がテンション上がって走れるなって感覚はあるかな。」

 

樫原「ほんまにそうですよね。声聞こえたらラストめっちゃ足動くし、盛り上がってるとかなり違う!」

 

薄田「その点で関東インカレは雨強すぎて何も聞こえないし視界も塞がれて、もちろん応援は嬉しかったけど…あんま走ってる時はわからなかった…(笑)」

 

樫原「選手紹介の時、パフォーマンスのしがいがあるかな。盛り上がってくれるから、テンション上げてレースに臨める感じ。」

 

薄田「雨でそれすらカットだったけどな(笑)」

 

 

 

──つづいて日本選手権についてお伺いします。まず、大会までの取り組みと結果への考えについてお聞かせください。

 

薄田「俺の場合はシーズンインから静岡国際、ゴールデングランプリ、関カレ、そのあと日本選手権って感じだったから、練習というよりは調整で繋いで日本選手権を迎えた感じでした。今季日本ランキング1位ということもあって、目標はもちろん優勝だったんだけど、準優勝に終わりました。予選はめちゃくちゃ余裕があって、体の状態も良くて優勝狙えるなという思いで決勝に臨みました。ラストスパートが利くタイプではないので、400~600mあたりでペースを上げていくのを意識したんですけど、決勝の雰囲気に飲まれてフォームがいつもより安定しなくて、ペースはいつもより遅いのにきついっていう感じなっちゃって。500mあたりから前には出たんだけど、そこも中途半端になっちゃって、ラスト100で力を溜めてた金子(中大)に抜かれる形になっちゃって。優勝を狙ってたからめちゃくちゃ悔しかったんですけど、自分がやりたかったことができなかったという反省が大きかったです。嬉しい反面悔しさ、反省が多いレースだったなと思います。」

 

──日本選手権を終えた後に、静岡国際を終えてから自身の置かれる状況の変化についてプレッシャーを感じたというお話がありました。詳しくお聞かせください。

 

薄田「これまでの日本選手権とかは決して優勝候補ではなくて、『決勝行けたら良いな』というレベルの、注目度は低い存在でした。だから自分のために走る、という考えだったんですけど、今シーズンは静岡で一発記録を出して、大学はもちろん高校の人とか、いろんな人が期待を寄せてくれるようになって雑誌でも取り上げていただけて、多くの人に注目されている状況は今年が初めてだったから、プレッシャーもあったし、ワクワクも強かったっていうのがこれまでとは違ったことかなと思います。」

 

樫原「私も健さんと一緒で、4月から連戦の中でターゲットにしてたのが学生個人と日本選手権だったので、しっかり調整をして臨みました。結果は、1500mは3年連続で決勝最下位ということになってしまったんですけど、『ここまで戦略通りにいかなかったのは初めて』って感じのレースでした。オレゴンのためにポイントをかなりとれるレースなので、相当ファストな展開で進んでいくと思ってたから、1周目の前半で集団に揉まれるよりは『いっちゃえ!』という気持ちでフロントに出て、そこから誰かに前に出てもらって集団の中で休憩させてもらって、また切り替えて3番以内を狙うプランだったんですけど、みんなが消極的なレースになって、PBも狙えるコンディションだったのに2周目からレースとして全く良い展開じゃなかったから『なんだこのレースは!!』っていう気持ちになって(笑)気持ちが切れたわけじゃなかったけど、普段の効率の良い走りができなくなってしまって、そのまま…って感じですね。悔しすぎて1500m決勝の夜は本当に寝れなくて、次の日800mの予選だったんですけど2時間くらいしか寝れなくて。(笑)朝4時半くらいから外散歩したりして、『800もダメだったらまた陸上嫌いになりそうだな』と思ったんですけど、さっきの『やるときはやる』的な感じで集中し直して、800で戦略を立てられるほど私は足が速くないので、後方から追いつくというレースを予選も決勝もしたんですけど、なんというか…3番になれて。1500mで練習してきたことがこの800mのレースに生きたのは良い成果の確認になったと思います。」

 

──樫原さんは専門の1500mに加えて、日本選手権では800m、関東インカレでは5000m、昨季は3000mSCにも出場されていました。各種目への思いや今後の取り組みについて教えてください。

 

樫原もちろんメインにしたいのは1500mで、そのタイムを上げるには800mに求められるスピード、5000mに求められる持久力が必要で、世界レベルを見る限りでも、それらでトップクラスになることが1500mでトップになるには必要だと考えてます。駅伝のためというのもあるんですけど、1500mに向けて自分の能力を理解するために、という考えです。3000mSCは、狙いとは少し違うんですけど(笑)昨季はたまたまタイムが出ちゃったんですよ。」

 

薄田「やっぱり天才だからな(笑)」

 

樫原「いやそういうわけじゃないんですけど(笑)高校生の時から少し2000mSCをやってて、身長とかハードリングから顧問の先生に障害系に向いてるって言われてて…3000mSCで世界を狙うっていう考えもなしではないのかなと。技術面は必要だけど1500mと近いものもあるし、こう言うとまずいかもだけどまだまだ未発達の競技だから、ゆくゆくは距離伸ばしていくこともあるだろうし、その時の選択肢のひとつとして入ってるって感じかなと。」

 

薄田「結構1500mと3000mSCは関係ありそうだなとは思うけどね、三浦くん(順大)も1500m速いし」

 

 

トップレベルとして

 

──外部の取材などでも答えられていましたが、薄田さんと二見優輝くん(中距離・体育2)はお互いに意識している関係だと思います。樫原さんも、SNSなどからは道下さん(立大)とお互いを意識する関係であると思われます。筑波大学内に限らず、切磋琢磨する存在についての思いを聞かせてください。

 

薄田「そうだね…いろんなメディアで言ってることと同じような感じにはなっちゃうんだけど、トレーニングを一緒にできるというところがやっぱり大きくて、二見が入ってくるまでは高強度の練習を一人で行うことは多くて、いっぱいいっぱいになることが多かったんだけど、今は一緒にハイペースで練習ができて助け合いながら練習ができるのが大きな一点。もうひとつは、感覚の話や目的意識の話し相手になってくれたことで、以前よりしっかり意識を持ちながら練習に取り組めるようになったのが大きくて、二見がいてくれてよかったなというのは素直に思います。他大の選手に関しても、ライバルとか敵というよりは、一緒に中距離のレベルを押し上げている仲間という認識があって。だから好記録を彼らが出した時に、悔しいというよりも『こいつがいけるなら俺も』っていう良い流れができるからむしろ喜ばしいことだと思ってる。だから、仲間っていう言い方が近いかなって思ってるかな。」

 

樫原「健さんが言ってくれたこととほとんど同じになっちゃうんですけど、レースの前はやっぱりライバルなので、話したりはしないで自分のことに集中してるんですけど、レースの後は一緒にダウンしたり練習の情報を共有したりできて、同世代の速い子たちからはかなり刺激をもらってます。ほんまに一緒のことになっちゃうんですけど(笑)一緒に高めていこうと思えるような、みっちー(道下選手)とも二人でもっと高いレベルへっていうことをよく話すので、折れずに頑張れて良い刺激を貰ってるなって感じです。」

 

──個人のどうこうよりも「日本のレベルを高めたい」というトップレベルの意識が芽生えたと。

 

薄田「800mとか1500mってまだまだ世界と差が広い種目だから、日本の中では今そこを盛り上げていこうっていう思いが強くて、団結していて良い雰囲気が中距離界に広がってるなって感じはするね。」

 

 

──薄田さんは学群4年生の時の「十人桐色」で、「ポテンシャル」を「自分を信じ続ける力」と表現されていましたが、それに対する今の思いは。

 

薄田「恥ず!!臭いですね(笑)でも、4年生の時から取り組みは変えてないし、その時の自分にはそのまま自分を信じてやってほしいかな。体のポテンシャルってものももちろんあるけど、失敗しても諦めない、自分ならできるという思いは大事だと思ってて。4年生の時は日本選手権で5番になったんだけど、4位との差は心にくるくらいには大きくて、でもそこで自分の可能性を信じて折れなかったのが良かったと思います。残りの学生シーズンもこのままいけるとこまでいきたいなという感じです。」

 

 

──樫原さんは先日アメリカ遠征をされていました。そこではどんな収穫がありましたか。

 

樫原「一戦目は日本人だけのレースで、2本目のレースについてなんですけど全然体調が合わせられなくて。ご飯が合わなかったり睡眠も思うように取れなくて、日本にいる時と同じように調整はしようとしたんですけど、体の状態が日本にいる時と全然違って調子がいいのか悪いのかもわからなくて…まじでわからなかったんですよ!どうしたらいいんだろうと思って!榎本先生に流しの動画を送ったり相談したりしてレースは走ったんですけど、アメリカの選手スタートが男子レベルかと思うくらい異常に速くて、集団の後方につかざるを得ない形になっちゃって…自分の体の状態も把握できなかったしレース展開についての収穫は思うように得ることができなかったんですけど、海外のスタートの速さは実際走ってみないとわからなかったことなので、次に海外レースのプラン作成には活かせるかなと思いました。」

 

薄田「向こうの選手と話したりした?」

 

樫原「英語あんまり喋れないんで…(笑)テンパっちゃってなにも聞けませんでした(笑)」

 

薄田「招集とかってどんな感じなの?」

 

樫原「ないんです!会場着いたら腰ナンバーもらいに行って、レースの時にパーっと行くだけでした。レース中も普通にトラック横切れるし、『ゆるっ!』って感じでした、筑大競かな?って(笑)ちゃんとランク高いレースだったんですけど、日本とは違うなって。」

 

薄田「観客は?」

 

樫原「いました!一戦目の時なんか日本人だけで、二戦目につなげる感じで楽に走ったんですけど、めっちゃアナウンスが『ジャパニーズなんとかー!!』みたいな感じで盛り上げてくれて、観客もヒューヒュー言ってくれて、テンション上がってこうやってゴールしちゃって、ウェーイって(笑)」(下画像)

 

薄田「いいなそれ、やってほしいな(笑)」

 

 

──ここから鍛錬期を経て始まる後半シーズンへの意気込みをお願いします。

 

薄田「いろいろ大会はある中だけど、グランプリシリーズでしっかり得点を稼ぎたいなと。あとは来年以降の世界陸上、オリンピックを見据えて、海外のレースも視野に入れていきたいなと思いますね。」

 

樫原「まずは全カレで関カレよりもレベルアップしたレースを組んで優勝できるようにしたいです。駅伝も近づいてスピードと持久力の両立が難しくなる時期なんですけど、しっかり勝てるように。」

 

薄田「全カレの大会記録っていくつなの?」

 

樫原「知らないです…(笑)」

 

薄田「大会新出して優勝っていう目標は?」

 

樫原「いやあ、それができたらかっこいいですね(笑)でも私関カレの大会記録も知らなかったんですよ、別に見てなくて(笑)あれ!?大会新なのこれ!?みたいな感じだったので…気にしない方がタイム出ません?」

 

薄田「それはあるうん。気にしない方がね。あーそうだうん、それはあるわ!」

 

樫原狙ってる時ほどタイム出ないんで、『こんな感じやろ!』くらいで、そんな感じで頑張りますと。突っ走りますと。練習ちゃんとしますと。そんな感じです。」

 

──筑波大記録、学生記録、そして日本記録を、静かに期待してます。広報委員会の方もばっちり準備しておきます。

 

樫原「無駄にさせないようにだなー」

 

──お願いします。

 

樫原「学生新はいきたいな!」

 

薄田「頑張ります。まあ日本記録はいけるかな…!!(笑)」

 

──ありがとうございました!

 

取材・文責:古澤慎也