【十人桐色】#13 留学経験者対談 後編

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入部制限のない筑波大学陸上競技部には、様々な選手が所属しています。出身や学群、境遇や競技力などは幅広く、まさに十人十色です。

様々な選手が、同じ組織に所属しながらそれぞれの目標に向かい日々努力を重ねています。

『十人桐色』では、競技部に所属する選手一人ひとりをピックアップし、その選手の思いを少しでも身近に感じてもらえるような記事を提供していきます。

筑波大学陸上競技部が持つ魅力のひとつである【多様性】に触れ、多くの方に新たな発見やコミュニティ拡大のきっかけを得ていただければ幸いです。

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昨日の投稿に引き続き、本日は留学経験者(下)ということで、3年生の2人を取り上げます!昨日同様E班のメンバー安藤(社工3)・田中(体育2)・桑野(体育1)が担当します。

 

以下ピックアップ選手です!

 

◇ピックアップ選手◇

川口 真弥(体育3)

山中 翔平(体育3)

喜多 綾音(体育2)

関口 大輝(比文2)

髙橋 香澄(人文2)

 

長期の留学を経験した2人。 陸上人生の話から始まり、留学に至る経緯や動機、そして彼らのこれから。山中・川口両選手の熱い言葉をそのままお届けします。

 

それでは以下、対談の様子をご紹介いたします!

 

 

-陸上を始めたきっかけを教えてください。

 

山中 小学校5年生の時に、単純に。その時、すごい内向的でいじめられっ子だったんだよ

   ね。で、唯一仲良くしてくれてた友達に誘ってもらって、行った。参加して楽しいってなって、今までやり続けてる!

 

-なるほど!なにか大きな出来事があったっていう感じではないんですね。

 

山中 そうだね!結構些細なことがきっかけだね。記録が伸びていくにつれて、自信つけて、内向的だった自分が意見を言えるようになってきて、こうなっちゃった(笑)

 

-陸上を大学でも続けてられていますが、その理由を聞かせてください。

 

山中 そうだね、留学前と後の時系列があるんだけど…。

 

-前からお願いします!

 

山中 正直言うと、高3の時足が痛くて全然走れなかったから大学ではやる気なかったの。だけど高校の顧問の先生が筑波の出身で、しかも谷川先生の先輩で仲良かったから、俺も筑波に行くってなったら競技部に入りませんとは言えなくて(笑)結局入ることにしたんだけど、でも大学1年生の時とか、11秒7とかで、その時はマジでなんで自分は走っているんだろう、自己ベストより1秒近く遅いのに。なんか全然楽しくないしみんな速いし。どうにかして陸上から逃げたかった。でも陸上をやめるってなると、これまで指導してくれた人や、応援してくれてた親を全部否定してしまう感じがして、なかなか言い出せなかった。そんな中、合法的にじゃないけど、いい感じに陸上から離れる方法を考えてた時に出会ったのが留学だったの。たまたまセンター試験うまくいったってのもあって英語好きになってきたから、「留学?アリじゃん。」って思った。

-言ってしまえば、帰ってきた流れでそのまま陸上から身を引けたのになぜ続けたのです

か?

 

山中 確かにやめるつもりで留学行ってた。タイに飛んだ最初の1ヶ月は英語をやって、慣れない環境で頑張ってやってたんだけど、ふとした時に、2ヶ月目くらいだったかな。なんか走りたいなってなったの。実際走ってみて、全然動けなかったけど、すっごい楽しかったの。それで、あ、俺走るの好きなんだっていうことが分かったの。それからなんで前は陸上が嫌いだったんだろって思い返した時に、負けず嫌いっていうのもあるけど、常に他人と比べる自分がいたんだよね。それでずっとずっと劣等感で悩まされて、それがだんだんストレスになって、それが日常生活とかにも嫌な形として現れてきたんだよね。あ、他人と比較している自分がいたなって、そこではじめて気づいて、他人よりも遅いっていうのを今後ずっと続けていくのかなって考えてみたの。そしたら、ウサイン ボルトの記録を超えるまでずっと劣等感に苛まれるの俺?って考えたら、他人と比べるのは違うなって思えたの。そこでみんな違ってみんないいって思えるようになったの。

 

-実際に陸上から離れたからからこその気づきですね!いろんな世界を見て陸上に帰って

くるのも面白そうですね!

 

山中 陸上だけやっててさ、陸上良いっていうひとも当然いっぱいいるじゃん。でもそれってさ、日本にずっといて日本めっちゃ良いっていう人とさ、いろんな国に行ってやっぱり日本が良いっていう人の言葉の重みとかさ、説得力も全然違うと思うんだよね。いろんな違うを知れたからこそ、やっぱり陸上好きなんだなって気づけたし、ほかの世界を知っているからこそ陸上だけにとらわれなくていいっていうのに気づけた。それに気づけたのが大きかった!

 

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陸上が嫌になり1度離れたことで、愛おしさを再確認できたとおっしゃっていたのが印象

的でした。今回は容量の関係で載せることが出来ませんでしたが、沢山の国に行かれた際の

エピソードなども話してくださり、とても楽しく内容の濃い対談をすることができました。

今後世界で活躍される姿が目に浮かびます。

 

 

-陸上を始めたきっかけは?

 

川口 中学校1年生の夏くらい。春はバレーボールしてたんよ。バレーボールめっちゃ好きでバレーボール部入ったのに、めちゃ緩くて。部活に行ったら先輩いなくて、実は倉庫の中で先輩たち漫画読んでたようなそういうチームで。これはやばい!と思って、どうしようかなって考えてたら、陸上部の先生に体力テストでまあまあ速かったから陸上部来いよって言われて。じゃあ行きまーす!って言って行った。そしたらめっちゃ怖くて、その先生が。

だけど嫌々3年間頑張った(笑)

 

-そうなんだ…。(笑)

 

川口 そう、なんかね、今の陸上人生を客観視してみたんだけど、陸上好きじゃないの。走るのも気持ちいいし、中学校と高校で優勝したけど、じゃあ、あなたが1番楽しかった時はいつですかって聞かれた時にその優勝した時の経験じゃないの。何が楽しかったって聞かれたら、その頑張ってる時が楽しかったんよね。めっちゃしんどいけど、あとで見たときに、この時自分頑張ってたし楽しかったじゃんって思えた。

 

-それを段階的に聞いてみたいな。中学は先生の声で、高校は?大学は?

 

川口 中学校で優勝してここで完全にやめようと思ったの。陸上やってて広がる人生ないと思ってたし、スポーツで生きていけないっていうのもわかってたし。でも高校の顧問の先生の話聞いて、陸上で広がる世界もあるんやって。陸上やってたけど、そのあとこんな仕事してる人もいるし、こういう仕事してる人もいるよって。先生の弟も陸上を大学までやって、起業したとか。そういうのもあって、陸上をやってても広がる世界ってあるんやみたいな。だったら続けようかなって。自分の強みでもあったし、先生にちょっと説得されたっていうか。それから、もうここまできたら推薦で大学行ってやろうって思ってた。だから高校は頑張れたかな。

 

-じゃあ、中学から高校の時は陸上やめようって思ってたけど、高校から大学の時は陸上やろうって思ってたの?

 

川口 うん。思ってた。それに、中学とか高校って、先生がずっと付きっきりで、先生がこうガーーって感じで。でも筑波はそうじゃないって聞いてたから、自分で考えて、競技も勉強もやってみようって思った。

 

-大学入学後からの陸上生活はどうだった?

 

川口 なんか大学はほんとにいろいろあったんだけど…

 

-そうだよね。

 

川口 結構高校の最後の方から、ちょっとなんていうのかなあ、行き詰った感があったんだけど、大学でまた頑張ろうと思って。でも、めちゃケガして、そこから身体も変わるし。めちゃめちゃ辛かった。1年の冬から2年の春、夏くらいまで、まじもう病んだくらい辛くて。で、なんだっけなあ。別に陸上に拘らなくてもいいんじゃないかなって思ったのが、1回あって。

 

―2年生になってから?

 

川口 そうそう。2年の2月過ぎくらいに思って、別に自分陸上だけじゃなくてもいいじゃんって思ったら、すっごい気持ち楽になって。じゃあ何したかったっけって考えたときに、そういえば中学の時からずっと留学したかったこと思い出して、じゃあ留学行こうって思って。グローバルコモンズ行ったり、それこそ山中に聞いたりして決意したかな。そうやって動けてる時に、あ、自分陸上だけじゃないんだって。それが楽しかったかな。

 

-種目をさ、棒高跳びに変えたのは…

 

川口 おおおー、それは、2年だね。その辺で、別に陸上だけじゃないって思ったときに、だったらやりたいことやろうって思って、なんか混成じゃないなと。高校の時からずっと棒高跳びやりたかったから棒高跳び始めたの。

-最後に、来年度は4年生ってことで、陸上部としてどう過ごしたい?

 

川口 えええ~どうしたいかなあ…。もう一回七種がしたい。うん。で、みんなで筑7で出よって言ってて、それに向けて!

 

-え、それ俺が筑7つくらなきゃ駄目じゃん。

 

川口 え?!つくって?!みんな出るから、だからつくらなきゃ駄目だよ!!

 

-あ、はい…(笑)

 

——————————————————————————————————-中学・高校と世代No.1となった川口。大学では苦しい時期が続きました。普段は天真爛漫な川口が、内に秘める想いを明かしてくれ、僕も心を動かされました。留学と出会い、新たな川口のラストシーズン。彼女なりの締めくくりで笑顔の川口が見られることを期待しています!

 

 

続いて山中・川口と運営メンバー3人での対談の様子です。

◇価値観について

-安藤 今までの話を聞いて、俺は「2人の考え方似てるな」って思った。陸上とは別の何かが欲しかったところとか。それ俺とも似てると思ったんだよね。俺の場合留学ではなかったけど、他に自分のやりたいことを見つけるまでは陸上の結果に生活の充実度が左右されてた。例えばモチベーショングラフを作った時に、グラフの上下は陸上の結果と見事にリンクしてて。

 

一同 へぇ、面白い。

 

安藤 陸上やってる人はなりやすいのかなって思うけど、大学3年生になって自分のやりたいことやできることが増えてから、陸上の結果と比例しなくなって。別の軸を見つけたことで結構3年生は充実してたかなって思う。

 

山中 陸上に依存しない生活ができたんだね。特に体専は、体専の中の同じ部活の仲の良い人たちだけで授業を受けてるけど、そんなので視野なんて絶対に広がらなくて。「自分の人生には体育だけ、部活だけ」みたいな世界から、一歩外に出られる選択肢を知っていると、逆に部活にもゆとりができる。結果俺は大学3年でちょっと記録が上がったし、その余裕が陸上を楽しくすると思ってるかな。

 

川口 そうそう。陸上するの、いいじゃんいろんなやり方があって。確かに記録を求めて強い競技者であることも大事だけど、それだけが全てじゃないと思う。私もずっとそれに向かって頑張ってきたけどどうしても苦しくなっちゃって。だけど留学行くことになった時に「いろんな人がいろんな目標に向かって頑張ることだっていいじゃん、大事じゃん」って思えたのが、「はぁ、なんだよかった」って思えた。

 

山中 そう、うちには入部制限ないじゃん。あの理由って何なんだろうって考えたときに、いろんな人が違う目標に頑張りつつも、結果的にみんなで頑張りあえるような環境があるのがこの筑波大学陸上競技部なのかなって思って。「いろんな人がいるから化学反応が起こる」みたいな。俺さ、陸上って人生を楽しくするっていう目的の1つの手段だと思うんだよね。その手段をさ、人それぞれ目標が違うのに、自分が正しいと思ってる手段を他人に押し付けるのはちょっとナンセンスなんじゃないかなって感じる。価値観はみんな違うからさ。

 

-田中 人生を豊かにする手段の1つである陸上が、いつの間にか人生の目的になってたところをもとの関係に戻してくれたのが、今回お2人でいう留学だったんですね。

 

川口 そう、ちょっと外に出たら「七種?何それ」だよ。track&fieldなんて通じないよ。

 

山中 通じない通じない!「あぁ、running、runningね」って。一歩踏み出したからこそ、陸上を客観視できたかな。

 

-安藤 俺も、記録だけが大事ではないと思う。ブロックをより良くするって目的で、今年に入ってから中距離で1対1の対談形式でのミーティングを行うようにしてるんだけど、そこでの話や2人の話を聞いて、たぶんこういう、記録を出した人だけが偉いみたいな空気感に対して違和感を感じている人ももっといるんじゃないかなって。だから1人1人のことを知る機会を作るっていう点でこのブログ企画はすごくいいと思うし、この中距離での取り組みも部全体でできたらいいのかなって思う。

 

川口 確かにね。

 

山中 対談ってアプローチをしたのは凄く良いなと思ってて。どうしても1つの雰囲気で成果を残す人はヒエラルキーのトップで、留学に行った時も英語めちゃめちゃ喋れるやつはやっぱりカーストの上にいるんだよね。それは変えられないけど、どうやったらみんなが楽しめるかなって考えたときに、上に立つ人が取り組みをしてくれる環境を作ることが大事なのかなって。でも、トップが気付かないかもしれない。その時にあんどぅー(安藤)がやってるみたいな、みんなの意見を聞いて、それがだんだん全体の雰囲気になって上の人も気づいて…っていうステップは大事なんじゃないかなってすごく感じて。俺もやってみたいな(笑)

 

◇これからの留学について

-安藤 これからの留学の話も聞きたいな。「もう留学いいや」って感じなのか、また行きたいのか、もし予定があったら教えてほしいな。

 

山中 俺はまた留学行きたい。せっかくの二度と戻れない大学生活だから、今しかできないことをやりたい。

 

川口 私は今はまだ日本に居たいかな。日本に帰ってきてまだ1ヶ月くらいだし。でもまだまだいろいろみたい!だってまだマレーシアしか知らないから、もっといろんなところに行きたいし、まぁ(川口)の最大の目標、自分の死に場所を決めたい。

 

山中 どぅあーかっちょええ。

 

川口 え、だってそうじゃない?たまたまじゃん、日本に生まれたの。たまたま大阪で生まれてたまたまつくばに来たけど、世界ってもっとでかいのよ。もっといろんなとこ見て本当に自分の住みたい国、住みたい場所を選んで自分が本当に幸せに生きられる場所を選びたいな。

 

山中 え、それいい。なんかさ、日本に帰ってくる人って「やっぱ日本いいよ」って言うけど、俺思わなくて。そりゃいいとこだけど、たまたま日本で生まれてたまたま日本人やっててたまたまつくばに来て。それもすごい楽しいけど、「日本にこだわらなくていいんだな自分のフィールドは」って思ってて。だから最後に思うのは、「自分の死に場所決めたいな」って。

 

川口 パクリじゃん(笑)でも確かに、山中は日本じゃないと思うよ。

 

山中 俺はそうだな…タイがいいな。俺全部の国の中で1番タイが好きだもん、日本含めて。

 

川口 なんで?

 

山中 なんかね、みんなのびのびしてんの。「気にしない気にしない」って言葉が「マイペンライ」っていうんだけど、タイの人は「その日生きられたらマイペンライだから悩む必要もないし、なんで日本人裕福なのにそんなに悩んでるの?」みたいな、はたから見たらそう思う人がいっぱいいてさ。俺らって多分めちゃくちゃ幸せな国に住んでるけど、自分たちの幸せを感じられないところがね。ちょっともったいないよね。

 

川口 そうね。

 

山中 こだわる必要なんてないよ、どこにでもこだわる必要なんてない。陸上部にこだわる必要もないし、日本にこだわる必要もないし。自分のこだわりにだけこだわっていればいい。自分のこだわりに自信をもって、自分の選んだ道誰よりも信じて突き進めば。 

 

◇留学についてのアドバイス

-安藤 最後に、桑野君みたいにこれから留学したいって考えている人にアドバイスお願いします!

 

川口 ちょっとでも行きたいなら行け!それに尽きることない?目標とかやりたいこと見つけてからじゃないといっちゃだめみたいな感じあるけど、もちろんそれも大事なんだけど、そんなの行ってみないとわかんないじゃん。

 

山中 そうだよ、やってみないとわかんねえんだよ。

 

川口 行って、「全然違うじゃん」っていうのも学びだし、自分の学びたいことを学ぶのもいいし…。とにかく行かないよりか行ったほうがいいです、今しかないです。

 

山中 俺もほぼ一緒かな。やりたいと思ったらやればって感じ。だけど、単に「行きたい」と思って行くんじゃなくて、ひたすら考えるの。「行ったら何するんだろう」って。それが目標である必要はないけど、理論だけ積み上げても仕方ないし、でも直感だけで行っても多分うまくいかないから、もちろん部活動のこともどうしようって考えたうえでやっぱり「行きてえな」って思ったら行くべきで、後悔を1番しないと思ってる。だから俺は、最終的に合理的な選択ができればいいかなって。やって後悔ってあんまりないからな。

 

-田中 確かに。ないと思います。

 

山中 やらないで後悔のほうが、後々後悔することが大きいと思う。やってダメだったら、「あーダメだった」で終わるけどさ、やらなかったらそれもないじゃん。だからやりたかったらやればいいんだよ。それこそ留学したいって相談しに来てくれる子とかって、もう実際自分の心の中では決まってるって最近気づいた。そのあと一歩を押してほしいだけなんだなって。…行けばいいと思う。自分の人生に責任とれるのは自分だけだし、ってところは大切にしてほしいかな。

 

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留学を通じ世界が広がり、心にゆとりができた事が2人の人生をより豊かにしたと感じました。一人ひとりにスポットライトを当てるこの企画だからこそ、この2人の深く、熱い思いを掘り出せたのではないでしょうか。「世界は広い」。だからこそ、我々は様々な視点から見ても強い競技部でありたいと思いました。

 

 

最後までご一読いただきありがとうございました。

以下、今回の2日間に亘る投稿を担当したE班のメンバーです!