【十人桐色】#11 『医学生が6年間陸上やってみた』 薬師寺 亮

 

こんにちは!今回コラムを担当させていただく短距離ブロック6年の薬師寺亮と申します。卒業前にこのような機会をいただけて大変光栄です。よろしくお願いします。

 

まず、簡単に自己紹介をさせていただきます。所属は医学群医学類6年です。陸上競技は中学から始め、1年間の浪人期間を挟んで、合計12年間続けてきました。種目は主に100m、200mに取り組んでいます。

 

私は幸運なことに、6年間陸上競技を続けることができ、大学4年次に個人選手権2位日本インカレ5位、大学6年次に関東インカレ3位の成績を収めることができました。今回はどうして6年間続けることができたのか、自分なりに考えたことを書かせていただきたいと思います。もし読んでくださった方の参考になることがあれば、うれしいです。

 

「時間付きの目標」が支えてくれた―

 

私は高校3年生の全国インターハイで決勝に進めず、その悔しい思いを忘れられませんでした。大学では必ず全国大会で決勝に進んでやると心に誓いました。1年の浪人を経て、医師の夢と陸上の夢を叶えられる筑波大学に入学しました。意気揚々と陸上競技部に入部したものの、周りは現役入学がほとんどで、高校でも全国大会で決勝に残るような選手ばかりでした。浪人ブランクがあり、練習すらついていくのに必死でした。さらに、人生初めての肉離れ(しかも両足)も経験し、卒業するまでに「この人たちと肩を並べられるくらいになるのだろうか」と毎日考えていました。

この頃の自分を支えてくれたのは、「時間付きの目標」を持っていたことでした。私の場合の目標は、「4年生までは競技部で競技を続けること」と、「4年次に日本インカレ決勝に進むこと」でした。目標があったので、日本インカレ決勝に進むのに必要なタイム、それには自分は何が足りていないのか、いつくらいにどれくらいのタイムが必要なのかを分析できました。また、「時間付き」だったことで、しんどくてやめてしまいたいと思うような時でも、あと1年、あと半年だけでも続けてみよう、と考えられました。私は、大学3年生までに全国規模の試合に出場したことすらなく、日本インカレ決勝なんて無理かもしれない、と半分諦めていました。ですが、「4年生までは競技部で競技を続ける」という目標があったため、残りの練習でも、念仏のように「あと1年で終わる」と心の中で唱えながら、がむしゃらに競技に打ち込むことができました。その結果、4年生での飛躍につながったのかもしれない、と思っています。

(2018 日本学生個人選手権 200mに出場し、20.93(+2.0)で第2位

「継続は力なり」というのは本当で、勉強でも練習でもコツコツやり続けることで成長できることはみなさん知っていると思います。そうは言っても実際には、やる気がなくなったり、集中が続かなくなったら、コツコツなんてやってられない、と投げ出してしまいたくなることは誰しもあると思います。でも、時間付きの目標であれば、「あと5分だけ勉強してみよう」「あと1本だけ走ってみよう」「あと1年だけでいいから続けてみよう」とモチベーションを保つハードルを低くすることができます。そして、不思議なことに、あと5分だけと続けてみると、20分30分と続けられたりします。自分に至っては、入部当初は、4年までと決めていたのに、なんだかんだ6年間続けられました。だから、目標は時間付きである方がいいんです。

 

―自分を信じることの大切さ―

 

ここまで、目標のおかげで一目散に頑張ってこられたかのように書いてきましたが、なかなか結果が出ない中での3年間は出口のない長い暗いトンネルのようで、3年次には目標そのものが自分にとって重荷になっていました。正直、早く4年の秋になって終わってしまえ、という気持ちでいっぱいで、消化試合のように毎日をこなしていました。

そんなある日、何の実績も残せず、自信を持てなくなっていた自分に、先輩が「お前はちゃんと才能がある。周りを気にしすぎ、考えすぎだ。周りを気にせず、自分のことに集中できたらきっと伸びる」と励ましてくださいました。またある日、授業の関係でチームメイトの練習が終わった後に一人で練習していた時、「目標達成するために頑張りたいと頭ではわかっていても、何のために医学部行きながら陸上をしているのかわからなくなった」と、半べそかきながらトレーナーの武井さんに打ち明けたことがありました。すると、武井さんは「今も十分頑張っているよ。自分も競技やってきて何のために、と思ったりしたけど、あの時頑張ってきたから今があると思えるから、当時の自分に自信が持てるよ」と、優しく声をかけてくださいました。

(トレーナーの武井さんと)

この2つの経験から、1年生から周りに圧倒されっぱなしで自分を信じられなくなっていたことに気づき、自分のことを認め、自信を持つことが大切だと、考えを改めました。なぜなら、いくら目標があっても、自分を信じてやれないと、練習でも消極的になってしまい、出されたメニューを受け身に考えて、自分のように、消化試合のようにこなすだけになってしまうからです。自分のことが認められるようになると、練習に充実感や積極性が生まれました。気持ち一つで練習の質がガラッとかわり、自分の課題も見つかりやすくなった気がしました。

また、このことがあってから、自分と同じように自信を失っている後輩を見たら、「あなたは筑波大学で練習できている時点で十分才能がある。これまでやってきた自分の努力を認めて、自信を持ってほしい」と口に出して励ますことを心がけています。これは意識してないと意外とできないことだと思うからです。選手にとって、先輩やコーチスタッフからの褒め言葉は、最高のご褒美であると私は思っているので、自分の言葉でその人の自信につながるなら、積極的に声をかけるべきだと考えています。もし、周りに自信を失いかけているチームメイトがいたら、「十分頑張っている、ぜひ自信を持ってほしい」と、その人を励ましてあげてください。言葉一つで練習の質はぐっと上がると思います。何より、成功体験がその人に自信を与えるというより、自信をもって練習に取り組めた人が成功するのではないでしょうか。何の実績もないからと気に病むことなく、自分のがんばり、自分自身のことを認めて、自信を味方に練習してほしいと思います。そして、悩み苦しみながらも続けてこられた経験はいつか自分に自信をもたらせてくれると信じてほしいです。

 

 

いかがでしたでしょうか。私は6年間陸上競技を続けてみて、結局のところ、「ただ競技を継続する」だけでも難しいと感じました。その中で自分が6年間続けられたのは、「時間付きの目標」を持ち、「自分を信じる」ことができたからだと思いますもし、思ったような成績が出せず悩んでいる方、競技をこのまま続けていいのか、と悩んでいる方にとって、この記事が少しでも力になれれば幸いです。

 

最後まで、私の拙い文章を読んでいただき、ありがとうございました。

筑波大学陸上競技部がますます飛躍を遂げることを願っています。

 

◇今日のコラム◇

薬師寺 亮(やくしじ りょう)

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医学群医学類6年

大阪府出身

大手前高校

短距離障害ブロック・100m,200m